SSブログ

『紀子の食卓』 [映画(・・・?)]

今一番気になる映画監督は、園子温監督。
去年『奇妙なサーカス』を観て衝撃を受けました。
http://blog.so-net.ne.jp/hanamomimo/2007-02-10-3

結局、『自殺サークル』は未見のままなのだが、今回観た新作はその完全版のようなもの。家庭崩壊という社会的なテーマを扱いながらも型通りの演出に収まらないのは、やはり子温監督ならでは。独特の感性で、どんなホラーより恐ろしい現代人の闇を照らした本作は、カルロヴィヴァリ国際映画祭の特別表彰と国際シネクラブ賞を同時受賞している。

東京での一人暮らしに憧れる17歳の女子高生、紀子。ある日、学校の情報室で「廃墟ドットコム」という全国の女の子たちが集まるサイトを見つけ、掲示板の常連になる。ハンドルネームはミツコ。そこで知り合った仲間たちとなら分かり合えると感じた紀子は、停電の夜に家出をして東京へ向かう。上京した紀子は「上野駅54」と名乗るクミコと出会い、彼女が経営する”家族サークル”というレンタル家族の一員になる。仕事は、家族のいない孤独な客の依頼を受け、出張してその客の娘になったり妻になったり、様々な役割を演じること。やがて、紀子の妹も廃墟ドットコムの秘密を知り、紀子を追って上京する。娘を失った父親は新聞記者としての調査力を活かして娘たちの居所を突き止め、知人にレンタル家族の客になってもらうよう頼む。しかし、現れた娘たちは父の前で別人のように振舞うのだった・・。

「絶対にあり得ない」と言い切れない話である。人は誰しも幾つもの自分を持っているものだけど、インターネットの普及で、最近ますますその傾向が強くなってきている。次第に、どれが本物の自分か分からなくなっても不思議はない。紀子は、ミツコであるときが本当の自分だと信じている。父親の前では紀子になってしまうため、必死になって父から逃げるのである。「あなたは、あなたの関係者ですか?」という台詞がこの映画のキーワードであるが、まさにこの問いかけが、嘘や虚構で固められた現実にいる自分を目覚めさせる言葉なのだ。

本当の自分は、紀子。しかし、紀子は虚構の中で生きている。だから、紀子は嘘の自分?

と、いうふうに。

映画は、前半、中盤、後半で雰囲気が変わっていく。全体に共通しているのは、一人称で語られるナレーション(いくつかの章に分かれており、対象が紀子になったり、妹のユカになったり、クミコになったりする)。小説を朗読するような語り口調なので、集中力を維持させているとちょっと疲れるが、このナレーションが客観的な視点を作るので紀子の心情にピッタリなのである。2時間半を超える上映時間で、中盤を越えた頃から物語は過激度を増していく。紀子とユカが数年ぶりに父親と対面し惨劇が起きるシーンには数十分時間が費やされているが、全く長さを感じさせない。ものすごい緊張感の持続。皮肉に満ちたラストも衝撃的だ。

紀子役は吹石一恵、妹のユカに吉高由里子、難役とも言えるクミコにつぐみ、父親に光石研。

教訓を押し付けず、観る者の捉え方に委ねる園監督。
やっぱり『自殺サークル』観なくちゃ。

2005年日本
監督:園子温
出演:吹石一恵、吉高由里子、つぐみ、光石研他

9月、K's cinsmaにて公開

参考DVD↓

自殺サークル


奇妙なサーカス Strange Circus


nice!(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。